【一章】

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「あ、アテナ……。何を……」 「クフリン……」 「何してるんだよ?! 早く治癒してくれよ?! 傷が深いっ! 息をしている内にっ!」  メロディアの背後に立っていたカウルが口元を震わせれば、アテナもアルテミスも目を逸らす。フリンは思考が定まらないまま、アテナとアルテミスの肩を揺らしていた。何度も何度も。「助けてくれ」と。  小さな木造の家が立ち並ぶ道を姉の手に引かれながら歩いていた。時折、振り返り笑いかけてくれる姉にモリガンも微笑み返していた。通り過ぎる度、集落の人々は手を振ったり、何かをくれたり。懐かしい森の香りに嬉しさと苦しさが混ざり合う。幸せだった日々があった。夢だと気づいたが覚めて欲しくなかった。見渡す風景がこの上なく輝いていたから。 「お姉ちゃんっ!」 「なぁに? リアン?」  振り返った先、視界に入るメロディアの笑顔。離されたその手を幸せそうに振るメロディアは大きな光の中に消えていった――  薪が弾ける音で目を覚ます。体が重く、視界が歪む。頭の痛みを感じながら周りを見ると優しく微笑むフレイヤの姿があった。 「随分、おねむだったようね?」 「貴女は……?」 「私はフレイヤ。貴女、相当疲れていたみたいね。三日は寝てたわよ? ほらっ! 湖が近くにあるから浴びに行きましょう?!」  手を差し伸べられ、言われるままにその手を掴み、立ち上がる。モリガンの記憶では、ガルデュークにいたはず。先を歩いていくフレイヤに問えば、眉を下げ、首を傾げた。 「何を言ってるの? ガルデュークには行かず、今は私の国に向かってるわ。慣れない状況だから、混乱してるのよ」  不自然な仕草と表情のフレイヤに疑問を抱きかける。しかし、目の前に広がる湖を見るとそんな疑問も消えていった。 「フレイヤ、遅いぞ」  愛想のない声が誰だかはすぐわかる。裸のアテナが湖の縁に腰をかけ、髪を掻き上げる。ただ、綺麗な形をする乳房だったがモリガンは鼻で笑ってしまった。 「おい、怪物。今、鼻で笑っただろ……」 「笑わないわよ、呆れただけ。誰にも触れられない悲しい体だものね?」 「貴様……っ」 「やめなさい、アテナもリアンも。ゆっくりしましょうよ。たまには」  気まずくなるのを嫌ったフレイヤが甲冑を脱ぎながら言う。体ではアテナに勝っていると優越感に浸りながら甲冑を脱ぐと、わざとアテナの隣に腰をかけた。
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