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「スカアハ様……」
スカアハに向かい、深く頭を下げたのはエレナだった。栗色の長い髪を耳にかけると、眉を下げる。黒紫のドレスからはみ出る手首には緑色の魔石が両方についていた。
「辛い想いをさせてしまい、申し訳ありません。いつか! いえ、クロノス様とカーリー様、プロメテウス様の夢が叶った暁には私が、私がセタンタを守りますからっ!」
決意にも似た口調。あのやさぐれた少年だったフリンをここまで愛している女性は見た事がなかった。スカアハとエレナが出会ったのは、亡くなったはずのエレナをフリンが胸に抱いている時。エレナを埋めたのは、間違いなくスカアハだったが、成長した姿で対面するとは夢にも思わなかった。
「反魂の術を魔珠に閉じ込め、更に蝕命得翼により成長と生命維持を……。副作用もあるのか?」
エレナは継ぎ接ぎだらけの人形。子供が壊した人形を縫い針と糸で繋いだだけの弱い体。しかも、摂理に反する事は体に負荷をかけ続けているのだろう。顔色も青白く見えた。
「まだ、体に激痛が走る時もありますわ……。でも、それ以上に子供を産めない体だと言うのが辛い……。いつか、この体が治った時、セタンタの、最愛の人の子供を産めないのは辛過ぎる……」
治ると言う言葉にスカアハは目を閉じる。死んだ体は蘇りはしない。エレナの行き着く先に生はない。だが、純粋な心は心底カーリーを信用している。愛故に盲目なのか、エレナの瞳にはフリンとの生活をする夢が描かれているように見えた。
「悪いが、その夢は叶わない。何故なら、セタンタは私が殺す。クロノスの夢が叶った世界は、セタンタが望んだ世界とは限らない。ならば、育ての母である私が子の最後への道も進ませてやる。それが、育てた者の義務だ」
エレナから見たスカアハの瞳は決意に満ち、それを見たエレナは目を見開く事しか出来ないでいた。一時的に強く吹いた風が二人の髪を乱していく。まるで、神界の崩れた秩序のように――
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