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「儂も恐い……。いずれ、伏義とも会えなくなるかもしれんからな……」
上空に煙管の煙が微風に消える。
女禍の方を見れば、無表情で遠い目をしていた。未だ、口をきかないフリンを案じたのか微笑みかけてくれる。その表情からは不安を隠し切れていない。当然、女禍も女性。神などと言う冠を被っているが神である前に女性なのだ。
微風が二人の長い髪を揺らす。無言のまま、座っていれば、小枝が折れるような音がする。振り返って見れば、木の幹に隠れるモリガンの姿があった。女禍が目で「行ってやれ」と言う。フリンは頭を掻きながら立ち上がると、そのはみ出た角のある木へ歩み寄った。
「リアン」
「ご、ごめんっ! たまたま来ただけだからっ!」
三人が三人、こんな入り組んだ森へ入らないのはわかっている。誰かと話したくて、不安を抑えたくて仕方ないのはよくわかっているつもりだった。
「フリン、早く戻れよ? もしかしたら、追っ手が来るかもしれん」
赤色の着物を大きく揺らしながら去って行く女禍。何故か、その背中にヘラの面影が重なる。しかし、ヘラとはもう会えない事を考えると辛くなった。
「本当に女の子になるんだね?」
「あぁ……、この姿は母の物らしい」
微かに覚えている母親の記憶。優しい声で口ずさむ歌をフリンも口ずさんでいた。意味はわからないが、メロディーだけは覚えていた。
「今度は私がフリンを守るよ! 私より小さくて華奢でペチャパイな女の子に守られるより守って上げたいもんっ!」
フリンはエデンにモリガンを連れて行かなくて正解だと思えた。たった一人の騎士に打ちのめされた事実を伏せる事が出来る。更に、幻影であるモリガンの祖母はエデン最強の騎士すら凌ぐ。肉体もないはずの信念と言う、在りもしない力だけで圧倒するのだ。それを見れば、守る守られるなどとは言えない。身を潜め、隠れる事しか出来ないのだから。
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