【一章】

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「リアン、お前はこのままガルデュークに残れ」 「えっ?」  一時的に風が強くなり、モリガンの髪を揺らす。真剣な眼差しを送るフリンの目をモリガンも真っ直ぐ見つめ返していた。 「お前が闘う必要はない。折角、辛い思いを乗り越えて来たんだ。わざわざ、死地に向かう事はない」 「待ってよっ! 私も少しは強くなったんだよ?! 特殊な魔法も手に入れたのっ!」 「俺には、忘れられぬ……。いや、愛する女性がいる」  大きな目が瞬きを忘れ、表情を歪ませる。モリガンはこれ以上、近づけないようにするためと言う事もあったがこれからの彼女の人生の邪魔にフリンはなりたくなかった。 「エレナを……。彼女を俺は愛している。幼い頃からずっとな……。今、彼女は敵の中にいる。だが、助け出せるのであれば俺は彼女と共に生きると決めている」  モリガンの右目から一粒の涙が落ち、次々と両目から涙が溢れてくる。ただ、静かに泣き始めるモリガン。手の甲で目を拭うが追いつかない。鼻を啜り、肩を上下させる。思い出せば、短いのに濃密な時間を与えてくれて。楽しかった日々にフリンは寂しさも覚えた。 「わかって……っ! わかってたのにっ! フリンは私を好きになってはくれない事も……っ! だけどっ! フリンの事好きになっちゃって……っ! 優しい温もりが大好きだから……っ! だから……っ! 離れたくない……っ! 嫌だよ……っ」  危険な目に合わせたくないのは当たり前。ただ、別れ際のエレナを思い出してしまう。モリガンに刻まれた呪術のようにエレナに巻きついたカーリーの魔の手から解放して上げたかった。いつか、二人で思い出の川に赴き、あの大きな岩の上で話しながら寄り添いたい。こんな状況でも、フリンの気持ちは変わらなかった。 「今までありがとう、リアン。幸せになれ」  フリンの言葉にモリガンは崩れ落ちた。そんな姿を見ても、フリンは背を向け、歩き出す。優しさは罪になる。これは勝手な思いではない。時に非情でなければ、守れる物も守れなくなるのをフリンは知っていた。
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