【一章】

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「不器用なやり方じゃな」  木の幹に背を預けた女禍。呆れたように眉を下げる表情は何処か優しい。フリンも自身の言葉の引き出しの少なさに肩をすぼめるしかなかった。 「これからどうするつもりだ? 奴らが何故、各国を同時に攻めたのかがわからんのだが」  紫煙を吹き上げた女禍は幹から背を離し、フリンに歩み寄る。隣り合いながらガルデュークに戻る道を歩く間、フリンは女禍への返答を考えていた。だが、理由が思い当たらない。神界を終わらせるならば、神と呼ばれる者達を消せばいい。それがパワーバランスを崩し、神界はドミノのように崩れ落ちていくはず。しかし、そうしないのに理由があると思うと振り出しに戻ってしまうのだった。 「女禍様、神と呼ばれる者達の原則は何です? 俺には未だにわからない」  目を細めた女禍は煙管を口にし、上下させる。左手に持ち直すと天を仰いだ。 「昔話じゃ、本当にそうと思うかどうかはお前次第だがの。神界が出来た当初は、生物の生態も不安定でましてや神界人など皆無じゃった。当時いたのはガイア、ウラノス、エロス、儂とエレボス、ニュクス、オケアノス、アスクレピオス、伏義、天照の十人。お互い、何故この世界に産み落とされたかわからないぐらいだし、言葉すら持たなかった。しかし、姿形が似た者同士じゃ、まずはコミュニケーションの方法を考え、言語を整えた。それから、生まれながらにして持っていた力、今で言う魔法じゃな。力を駆使し、大地を整え、天候を整え、木々を植えた。すると、神界は見違えるほど美しくなり、生物は進化し、食物連鎖が出来る。ただ、儂は寂しかった……。十人しかいないのだ、仲間、言語が通じる者が。内、数名が恋に落ち、子を産んだ。勿論、儂も子持ちだぞ? するとどうだ? 次第に年月と共に子供の子供。子供の子供の子供と増えていき、やがて賑やかになった。だが、儂らの予想にしない事が起きた。死だ。儂らには死と言う概念はない。見ての通り、老いぬし死なぬ。儂らは考えた何故、子供らは死んでしまうのか。答えは原初の血が薄くなると言う事。原初の血とは儂ら神と呼ばれる人々に流れる不老不死の血。これが、子供を産む度、徐々に薄まっていくのがわかった。儂らは慌てていた……。子供達が儂らより先に死んでいくのが辛くなり、もう一つ世界を作った。それが人間界だ。
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