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「それなら、弁解して回らないとな、ショパンに飲まされました、ってさ」
「そんなこと、誰が信じる?」
「…はは。君こそ、今日はいつもより飲んだだろ、珍しくいい色してる」
ショパンが自分の頬に俺の視線を感じると、自覚はなかったのか今更逃れるように俯いた。
俺から離れて迷子になった彼の手を包むように握る。
「…ちょっと、」
夫人が戻ってくることを気にしたのだろう、ドアの方を見るショパンの手に力が籠った。
優しい動作で騙すように、その華奢な体ごと抱き締めた。
数分前に感じていた嫉妬も、距離も、焦燥感も、歪んだ感情も、触れ合った瞬間に溶けてなくなってしまう。
ショパンのノクターンが昼間の喧騒などなかったことにしてしまうように。
残るのは言葉ではなく――――――
触れて感じる互いの温度。
それを、ショパンが赦すこと。
愛しいと思う、気持ち。
そこでようやく俺は気付くのだ。
それで、いいのだと。
Fin.
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