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「そんな依頼でも出し続けるってことは、
何か理由があるはず…」
男の顔に曇りが見えた。
「えぇ。
実は娘が幼い頃より胸に重い病を患っておりまして、その病に効くとされる薬草が、ある山中の村で栽培されているのです。」
「それでは、依頼の内容は薬草を持ち帰ることでは?」
僕の問いに善蔵は渋々口を開く。
「その薬草は日々取り続けなければいけず、
その村へ行く道中に妖が現れた、というのが現状です。
ですから、その道中の妖を退治して欲しいのです。」
なるほど…
「では、山中の妖討伐と薬草の
持ち帰りという依頼でいいですか?」
「はい。その通りでございます。
ですが、なるべく早くにお願いします。
ここにある薬草は、残り僅かしかありませんので…」
娘を思う親か…
善蔵さんの娘を心配する姿をみて、
胸に何か物足りない様な、
そこだけ何もない穴が空いた感じがした。
「わかりました。
それでその村へはどういけば?」
僕の言葉を聞いた善蔵さんが傍に座っていた女中に目配せをすると、女中は一枚の大きな紙を畳の上に広げた。
これは江戸の地図?
善蔵さんは地図の一カ所を差す。
「ここが目的の鈴鳴り村です。
江戸南橋から馬で半日かかりますので、
馬を用意させていただきました。」
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