契り交わす時(前編)

9/24
前へ
/32ページ
次へ
僕が奥にいるとき、音しか聞こえていない。 だから、たぶん宵玄もそうだろう。 そんな考え事をしていると、 目の前に伊藤園という看板のある店があった。 ここだ。 「失礼します。」 引き戸を開け、中に入る。 「いらっしゃいませ。今日はどういったご用で?」 落ち着いた黄色の着物を着た女性の はっきりとした声が響く。 「客ではないんです。今日はこの件で。」 一枚の紙を懐から出し、その女性に渡す。 「あぁっ!! 今主人をお呼びしますので、 少しお待ちくださいませ。」 紙を見たその女性は何か感づいたようで、 すぐに小走りで奥へ行った。 少しして、その女性は 一人の初老の男を連れ戻って来た。 「私が伊藤善蔵でございます。」 伊藤さんは一礼をして、 畳に正座をすると話を続ける。 「此度は依頼を引き受けられたとか。 どうぞお座りください。」 「どうも。」 草履を脱ぎ、居間へと上がって、 刀を腰から抜きながら正座をする。 「僕の名前は柊(ひいらぎ)暁玄といいます。」 「暁玄様、この依頼は危険だと知っておりますか? もう何人もの人が引き受けてくれましたが、 未だ誰も帰って来ておりません。 その中には免許皆伝の腕を持つ 御方もおられたのですが…」
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加