第十話

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どういうことや。 陽太が、店を飛び出しやがった。 立ち尽くす俺に、ドアベルだけが可哀想にねと囁くように鳴り続けている。 いやいや、可哀想とか、 そもそも、え?何が? あいつ、何であんな、凄い形相してたんや? 「…まー君…」 呼ばれて振り向くと、カウンターの中に居る純平が、 これまた凄い顔で俺をガン見している。 え?どゆこと? 「ちょ、純平これってどういう」 「ジュリアってええ加減呼べやボケェェェェ!」 「えーだってお前じゅんぺ」 「そんなんどうだってええわぁぁぁぁ!!」 完全男性バージョンの怒声に周りの客も表情凍ってる。 俺だけが、取り残されていますか? 姿勢を正し、こほんと咳ばらいをし、 やけに緊張するが顔を上げた。 「えーっとぉ、…ジュリア、よ。」 「うん」 「これは、その、何事ですか」 「…せやなぁ、何事、やと思うのん?」 「皆目見当もつかん。」 「はぁ…こりゃ、…苦労するはずやわ…」 遂に頭を抱え出してる。 どうやら俺は、そうとうな問題を巻き起こしたっぽいことだけは悟った。 俺が何をした? 俺はただ、陽太と飲もうか思って、 帰ってるやろうに連絡つかんから、となるとこの店やろうと思って来て、 よっしゃぁ~ビンゴやぁ~ん思って、声をかけた、だけや。 「あんたとは違い、あたしは全ての流れを把握してるんでね」 「はっ!?何が!?どゆこと!?」 「言わせてもらうけどねぇ」 「ちょ、ちょいちょい待ってや!流れ?あったんそんなん?」 店のど真ん中に立ちっぱなしだったので、 大股でカウンターまで駆け寄った。 「まー君あんた、あの子のことどうしたいのん?」 純平はこっちを見てくれない。 「あの子って、陽太?」 「他に誰が居るんよ」 「どうもこうも、話が全く見えへんのやけど」 相手に合わせて俺も声のトーンを落とした。 するとやっと、指の間からチラリと目線をくれた。 「陽太君、ゲイよ?」 「知ってるよ。」 「…知っててよく一緒に居るね。そんな残酷な人やと思ってなかった。」 穏やかな口調なのに、言葉が突き刺さって来た。 身に覚えが無いのがこれまた、辛い。
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