第十話

3/6
前へ
/115ページ
次へ
「ええか、あたしらはな、…興味本位の優しさなんて要らんのや。」 冷酷な目だ。 俺は、怒られてるようである。 だが依然として、内容は見えてこない。 「そんなん、興味本位なんて、」 「そこがあんたは無自覚なんがまたタチ悪いんよねぇ」 「ちょい、待て。何でお前にボロカス言われてんねん俺は」 話が一向に見えない。 そりゃあ、陽太は良い奴や。 最初、うちの営業所に来た時の様子も覚えている。 営業やのになんやクールな子が来たなぁって、 でも頑張ってるな、と思っていた。 隣のチームやから客観的にしか見てなかったけれども。 月日が経てども、あまり周りと仲良くつるんでいる様子も無かった。 俺が声をかけるのもまたちゃうか、と、遠くから見ていた。 話したことはあったはず。 他愛もないことで、仕事慣れたかー?とか。 あいつはロクに目も合わせずに、「ウッス」とかしか言ってなかったはず。 いつからだったろうか。 そうだ、ある日、目覚めたら陽太の家だった。 前日は接待で、結構無茶な飲み方をしてて、 その後どうやら此処へ来た俺と、陽太が偶然出会った。 あの日から、本当のあいつが垣間見えてきた。 ゲイだと告げられて、色々なことに納得してしまったのも事実である。 それはきっと、先に純平を知っていたから。 同窓会で再会した純平が女の姿、立ち振る舞いをして、 本来の彼自身を閉じ込める必要が無くなった、 自由になって良かったなぁ、なんて感想を言おうとしたけれど、 何処かまだ居心地が悪そうに見えた。 あからさまに変わった彼を見て、周りの同級生は接し方に困っていたし、 腹が立ったのは、面白半分で盛り上げてた奴らだ。 此処に至るまでに純平がどれ程自分を押し殺してきたんだろうとか、 どれ程大きな決断だったろう、とか、 考えていると、頭が下がる思いだ。 後日店に行った時、純平に俺なりの思いをぶちまけたら、 「せやねん。」と一言、呟いたのを覚えている。 それしか結局言わんかったけれど。 だから、俺に打ち明けてくれた陽太の本性を、 俺は素直に受け止めたつもり、やった。 ほんまは、誰かの傍に居たかったけれども、 距離を取るうちに、そのことすら忘れてしまったんじゃないかと。 俺と一緒に飲んでる時は今まで見たこと無いくらいに、楽しそうに笑うから、 もっと笑わしてやりたかった。
/115ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1150人が本棚に入れています
本棚に追加