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付き合い始めてから、基本的には塚口さんが俺の部屋に転がり込んでいる。
同棲しているも同然だが、
社会的にはそれがオープンになる訳ではないので、塚口さんは自分の部屋を物置代わりとして時々荷物を取りに帰るくらい。
車は営業所に置いて、俺の家に帰ってきて、
晩飯というか晩酌というか、ゴロゴロして、
そして当然、いちゃついている、という具合だ。
営業所では俺がにこやかになったと話題になり、
「彼女できたんか!?」と詰め寄られたが、
「そんな訳無いやろーが!!!なぁ!!?」と話をぶった切りしたのが言うまでもなく塚口リーダーなので、もう誰も何も突っ込めない状況である。
他の誰に言えなくても、言う必要なんてない。
俺は確かに今、幸せやから。
だが、ある日突然、塚口さんが俺に言った。
「もうあんまりルチル行くなよ。」
それはそれは、ごく普通に部屋で過ごしている時だった。
さらりと言い放つので理解できなかった。
「いやいやいや、何でっすか。」
「だって、ほら、…危ない街やん?」
「危ないって、俺大人やし、つーか何を今更」
「お前しょっちゅう声かけらたりしてたんやろ?」
「んまぁしてましたけど、別にキモいおっさんばっかりやし無視してるし」
「ん~~~~、ほら、ルチルも、そういう客、多いから」
「だから俺別にジュリアさんと喋ってるだけやし」
「せやからそのジュリアがっ……あぁ、いや、なんでもない。」
「…何?」
「とにかく、あんまり、行かんといて…」
最後の方は勢いを失い何故か懇願する形で俺の肩を叩いた。
納得はいかんが、こうも必死に頼み込まれたので、
おおっぴらにルチルにはあまり行かなくなってしまい、
塚口さんが仕事で遅い日なんかに、こっそり行くようになっている。
頻度が落ちたことを謝りながら、
やっとルチルに来れた今日、俺はこの経緯をジュリアに愚痴った。
「俺の、唯一の楽しみやで!?のんびりさぁ静かにできるこの時間を、何ではっきりせぇへん理由で止められなあかんねんって!!」
話しながら苛立ちがこみ上げてきた。
知らず知らず声のボリュームが上がってしまったので、我にかえって周りを見渡す。
良かった、まだ客は居ない。
前を見ると、ジュリアが声にならない爆笑をしていた。
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