最終話

5/8
1147人が本棚に入れています
本棚に追加
/115ページ
スッとジュリアが持つグラスが差し出されたので、 互いにグラスをぶつけて乾杯する。 「さ!」 「いや、さ!言われても」 「入れたんか!?」 「ちょーーーいジュリアさん!そんな人でしたっけ!?」 俺よりも多い一口をぐびぐび飲んでる彼女は、 至極真面目な顔つきで俺を見下す。 逃れられないのだ。俺は悟った。 「てゆーかあんたら、付き合ってどんだけ経つんよ」 「来週で3か月。」 「そゆとこキッチリ数えてるんやったら、何でしてへんねん。」 「それは……察してよ。」 俺は、この3か月を思い返す。 するとどんどん虚しさがこみ上げる。 何もしなかった訳じゃない。 両想いになったのは事実やし、そこそこ痛々しいくらいにいちゃついている自負もある。 だがしかし、 俺は根本的なことを忘れていたのだ。 「塚口さんが、家に居るやん?」 「うん、同棲してんのやろ?」 「ほぼな。ほんで、飯食うて、飲むやん?」 「うん…」 「そんで、そのまま、飲むやん?」 「………」 「寝るやん?」 「マジで」 「マジで。」 「はい、説教します。呼びなさい此処に!!!」 「ええええーーー面倒くせぇええええ」 誰も客が居ないから俺たちは自由に叫び放題だ。 各々言葉にならないモヤッと感を吠える。 悲しいけれどこれが事実なのだ。 勿論毎日こんなんじゃない。 そもそも何もかもが初めての俺に気を遣って、塚口さんは俺との関係を本当に少しずつ進めようとしていた。 俺が痛がればそこで直ぐに止めたし、 その点は俺が至らなかったのかもしれない。 一方的にあの人を責めることは、できんのや。 俺の想いも全てジュリアに語った後、 吐き出しきった俺はしぼんだ風船が如くカウンターに突っ伏す。 「仕事で遅い時もあるし、大概あの人寝てもうて起こして風呂入らしてベッド寝かせたらもうええ時間なってるし、時間あっても俺がビビってもうてあかんこと度々…です…」 「指は入れたんか。」 「はい、指は、ってうわあああ」 「ほうほう、あと一歩のところで…はああ、情けない。いやでも、そこまで優しい男に陽太君が愛してもらえてるんは、私としても嬉しいよ。うん。」 「恐れ入ります…」 「もうそれは陽太君が、腹括る方が早いんやろなぁ。」 「うええやっぱり」 塚口さんの酒癖はもう諦めようという結論だ。
/115ページ

最初のコメントを投稿しよう!