第一話

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自分がマイノリティだとはっきり気づいたのは高校生くらいだったと思う。 周りの同級生が色恋に沸き立つ中、 俺は特に興味を持てなくて、 それが「好みの子が居ないからだろう」なんて言っていたけれど、 本当は「女に興味を持てなかった」という理由だったんだ。 始めは少し、悲しかった。 でもある意味マイノリティも不自由はしない。 何故ならそれなりにマイノリティの集いってものが設けられているから。 俺の場合はこのバー。 街自体が、大々的にそう謳っている訳ではないけれど、 「そういう人間」が集まる場所なのだ。 オフィス街から歩いて10分くらいの都会に埋もれるその街は、 日が昇るまでネオンを消さない。 沢山の飲み屋や、バーや、いかがわしい店が所狭しとビルに押し込まれる。 道には客引きが条例を無視してわらわらとたむろしている。 この様子が常で、 日ごと表情を変えることもない。 メイン通りの、小さなビルの1階にある「bar Rutile」という店はカウンターだけの真っ白な店内に白熱灯のシャンデリアが優しく光る。 従業員は一人だけ。 「ジュリア」と名乗る、 …要はとっても女性らしくしている、男性である。 艶やかな黒髪のおかっぱに、 原形を留めないギリギリまで激しい化粧を施していて、 体中に重そうなアクセサリーを着けている。 何でこの店を選んだのか、 直感でしかない。 俺がこの土地に来て、まだ1年は経っていない。 大学を卒業して、なんとか就職して、 営業マンとして本配属されたのが去年の秋頃。 地元からそう遠くは無いが、 それでも気軽に遊べる友人が居る訳でもなく、 俺は独り夜の街に繰り出した。 噂では聞いたことがあったんだ。 この街で俺は居場所を見つけることができるかもしれないこと。 それでも始めはびくびくしながら夜の街を歩いていて、 下品な明かりにげんなりしていた時だ、 小さな窓から、優しい光が漏れているのを見つけた。 それがルチルだった。
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