第一話

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ジュリアは、ごつい。 マッチョって訳じゃないんだが、 お世辞にも華奢とは言えない、背も高い、男らしい背格好なのに、めちゃくちゃ美人で、 そしてめちゃくちゃ温かい人である。 1人で初めて来店した若造に、 「この街初めて来たん?まぁ気ぃ張らんと、ゆっくりしていきな。」 と、何故か一発目にハーブティをサービスしてくれた。 それ以来、他の店を散策することもなく、週に2、3回ルチルに立ち寄っている。 正直家の近所ってわけでも、営業先の近所でもない。 仕事が終わると家に帰って着替えて、 わざわざ電車に乗って向かうような場所だ。 平日はそんなに混んでないから、俺はジュリアにしょーもない話をして、 ジュリアは「そおかぁ」といつも穏やかに聞いてくれる。 他の客と面識が出てくることも、流石に出てきた時、 俺はこの街が、どんな街だったかを思い出す。 店を出た途端、隣に座っていた40代位の男に誘われたのだ。 はげあがった、テッカテカのおっさんだ。 丁重にお断りしてしまった。 でも俺は、確かに男が好きなはずなんだけど。 いよいよ、わからなくなる。 23歳で、人生の路頭に迷いそうだ。 仕事が終わる時間は日によって違うけど遅くても9時までには帰宅する。 早ければ7時台に帰れるので、 そんな日は必ずと言っていいほどバーへ向かうのだった。 ビールと、ジュリアの手作りつまみが晩御飯。 今日はどて煮。 内装が洋風だからせめて洋食を作ればいいのに、 結構和食率が高い。 「陽太君、今日のお仕事はどんな感じやったん?」 「んー、別に。良くもなく、悪くもない、つまらんかった。」 「そうかぁ。ご飯ちゃんと食べてるー?1人やったら自炊とかせぇへんやろ?」 「するよ俺こう見えて!今度作ってきたろか?」 酒に合うように少し濃い味に作られたどて煮を頬張って、 はふはふしながらカウンターにもたれ掛る。 今客は俺一人だ。 まぁ平日の、木曜日の、10時に、来てる方が珍しいのかな。 木曜日に来るなら、金曜日の夜にパァーっと行きたいところだろう。
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