1148人が本棚に入れています
本棚に追加
家についてタクシーの運ちゃんにまた肩を借りてうんともすんとも言わない塚口さんを、マンションの3階まで運び上げて、
一旦玄関に置いといて、
その間に急いで客用の布団を用意した。
つっても会社借り上げのマンション、単身用である。
リビングに、一応寝室も付いた1DKだが、
一部屋ずつがそこまで広くはないから、
俺のベッドの横に並べるようにして敷いてみる。
それから玄関に置きっぱなしだったぐでんぐでんの塚口さんの両脇に腕を差し込んで、足は引きずるようにして室内を移動し、
最後は力一杯放り投げてやった。
けど、起きなかった。
あんたよく今まで無事で生きてきたな…。
呆れ返るが、
よく見ると当然だが塚口さんはスーツのままである。
着替えさせるべきなのか。
皺になるんじゃねーのか。
色々思考を巡らしながらズボンのベルトに手をかけるが、
俺は動けなかった。
だってよく考えてみろ。
この状況だ。
俺、林陽太、23歳、もうすぐ24歳。
独身、一人暮らし、ゲイ、ゲイバー通い。
俺の下で寝ている人、塚口政孝、3…32歳くらいか。
独身、ノーマル、無防備、酔っ払い、
俺にズボンを脱がされそう。
…あかん、これはあかん。
どう考えても、これは、誤解を招く。
いや、誤解ではないのかも?俺ゲイだし?
いやいやいやそうじゃなくて、
…触れずにおこう。
俺は塚口さんを放置することにした。
-そして翌朝。
小鳥のさえずりよりも、
蝉の声で起きてしまう鬱陶しい、夜明け。
俺はベッドの上で、横になっていたまま過ごしていた。
…寝れるわけ、ないやん…?
サークルの合宿とか以外で、よくよく考えたら他人(男)と同じ部屋で寝ることなんて、無かった。
避けてきたから。
バレるのを恐れて。
人の寝息を気にしていたら、朝が来てしまった。
6時にセットしたアラームが遂になり始める。
途端、塚口さんはがばっと起き上がった。
「うぉわっ!」
あまりに急に起きるから俺も変な声を上げて飛び起きた。
きょろきょろと部屋を見渡して、「…あれ?」と首を傾げている。
これは、まさかの、
記憶が全部飛んでいるパターン。
最初のコメントを投稿しよう!