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俺を見て塚口さんが停止している。
髪は昨日よりも更にとんでもなく乱れている。
「…林?」
「…おはようございます、リーダー。」
「あれ、…あれ?なんで、やっけ?」
「えーと、…酔って、らっしゃったので…」
会社の上司が相手だと、
自分の部屋でも気を遣うのが変な感じだ。
だが昨日の姿とは打って変わって塚口さんの顔は、いつものシャキっとした顔に戻っていた。
「そっか、悪いな!ありがとう!今何時や?」
「6時っす。」
「6時か。ここ、何処や?」
「最寄は新金岡っすね。」
「おぉ、そうか。ほんなら家帰るわ。」
「え、あ、はい。」
家から事務所は1駅だ。
一人暮らしの人間は大体何駅かで着く場所に住んでいるのは確かなので、塚口さんもそう遠くはないと思っていたが、
これは正解だったよう。
寝起きとは思えないしゃきしゃきとした動きで立ち上がり、鞄を手に取ると、「じゃ!また事務所で!」と颯爽と出て行ってしまった。
扉が完全に閉まって、俺は力が抜けてやっとベッドに沈み込んだ。
とは言っても俺も準備を始めなければいけない時間だ。
あぁ、もう、
嵐や……
えらいもん見てしもた……
非現実であるルチルと、超現実の塚口さんが交差してしまった。
なんか悲しい。
いつも通りの時間にギリギリで出社すると、
塚口さんは、俺の知ってる塚口リーダーに戻っていた。
スーツもちゃんと着替えているし、
髪型もセットされて、
男前だ。
まるで親心のように、それを見て安心している自分がいる。
同僚たちに挨拶しながら席に向かうと、塚口さんが俺を見つけて「林!」と近づいてきた。
顔を近づけて、いつもより小声で俺に囁く。
「ほんまありがとうな。」
「あぁ、いえいえ…間に合ったんですね。」
「おう、ばっちり。」
笑うと笑い皺ができる。
ちょっとだけ見上げながら、目の前の顔に見とれそうになった。
「迷惑かけた分お礼しやなな。お前今晩空いてるか?」
「えっ!は、はい。」
「ほんなら、飲みにいこか。奢ったるから。8時には終わってるな?」
「はい。」
「じゃ、あー、お前んちの近所で、また連絡するわ。」
「は、い…」
言うだけ言って、リーダーは自分のチームの集まりに行ってしまった。
立ち尽くす俺は、誰かに声を掛けられている気がするがよく判らないままだ。
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