第九話

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「俺な、実はお前がゲイやって聞いてから、ちょっと調べてみた。」 「…え…何を…」 「…どうやって、セックスすんのかなって。」 「えっ」 ベッドに並んで腰を掛けて、男2人が見つめ合う。 この状況で尚も塚口さんは穏やかに、 だが恐ろしいことを口走った。 「何で、そんな」 「単純に気になってなぁ。いやー流石にマッチョのんは見るに耐えたけど」 「ってまさか何かビデオとか観たんすか!?」 「おー観た観た。すっごいなぁーあれなぁー。パンチあったわー」 何度だって俺は確信する。 この人は何処かの回路が故障している。 俺がゲイだと聞いて、何であんたがゲイビデオ漁ってんねん。 でも、今の言い方からすると、 やっぱり理解はできないんだろう。 そら俺かてガチムチはちょっと怖いと思うけども。 次に何を言い出すのだろう。 ハラハラしている内に、塚口さんの掌が俺の頭を撫でまわす。 ちょっと強めやから、俺の首ごとぐわんぐわんと揺れた。 「…でもなぁ、さっき自分で、お前のこと好きやぁって言うて、…それでやっと、あぁお前のこと好きやったんやなぁと思うと、全部繋がってまうもんなぁ…」 塚口さんは、仕事の時には見せない、ちょっと眠たそうな半開きの目で、柔らかく微笑む。 そして何だか楽しそうに俺の頭を揺さぶり続ける。 視界が安定しないので気持ち悪くなりそうだけど、 あんたが楽しそうなのでどうも制止できない。 2回目だ。 塚口さんが俺のことを、好きだと言った。 「お前と一緒に居りたくて、…しょーもない話しかしてへんのになぁ。お前が居らんと、探してみたり、お前が合コン行くって聞いたら、なんや複雑なってなぁ…うん。一緒や。」 「…一緒…なんすか…」 「うん。…あー、俺ら、あかんなぁ。」 やっと手が離れる。 まだぐらつくが自分の掌で額を支えて、正面を向いた。 「俺ら、どっちも、人を好きになるん下手くそやなぁ。」 顔を見れたのは一瞬だった。 いや正確に言えばまだ塚口さんは視界には存在するのだが、 急に狭まった距離のおかげでピントが合わない。 身を乗り出した塚口さんの腕は俺の背中にまわされる。 ただ呆然とする俺は動けない。 でもあんたの笑顔は見えた。 今は口角が上がったままのその唇が、 俺のそれと、重なっている気がする。
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