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風が吹いた。
乾き始めていた地表の砂が舞い上がる。
文明が終わりを迎えつつあるこの世界。
さりとて自然がそれほど急に回復されるはずもなく地は剥き出しの砂。
ただただ荒廃した平地は、少し強い風が吹けば容易く砂の煙幕を張ってしまう。
砂塵はいただけない。
雨ならば屈折されるだけのレーザーも、砂塵の壁だと遮断されてしまう。
照準がアテにできない以上、オレたち人間が頼れるのは己の眼だけだ。
風が収まるまで、市街地――コンクリートの森へ戻るべきだろうか。
しかし、ビル影は身を隠して潜むには良いが、こうして多くのAMSが集まってきている現状、こちらがグールと間違われて発砲される危険性もある。
――さて
オレは考える。
砂塵の中でグールの襲撃を受けるのと、ビル影に潜んでいるところをうっかり者のAMS乗りに撃たれる――あくまで確率の問題だが、比べれば後者の方がまだマシに思える。
「ルー、市街地に戻って風をやり過ごすぞ」
転身クラッチを繋ぎながら操縦桿をゆっくりと捻り、機体を旋回させる。
あちらこちらのサスがギシギシと軋む。
戦闘以外では極力負担を掛けない操縦を心掛けてはいるが、さすがに近頃じゃ各部の老朽も目立ってきている。
かと言って、このご時世には交換する部品も技術者もほとんど残ってはいない。
もしこの機体がダメになれば次に乗る機体などは到底手に入らないだろうから、オレの命はけっきょくのところこのポンコツと一蓮托生だ。
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