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雨が降り始めた。
強い物ではない。
目を凝らしてようやく分かる程度のしとしと雨だ。
ウェブ天気予報でも雨が降ることは伝えていたから、当然オレもそのつもりではいた。
が、やはり降らないなら降らないに越したことはない。
例え豪雨でもレーザー照準は30メートルほどの射程ならば保障はされていたが、目視した時の輪郭はぼやけるし、なにより辛気臭い。
オレたちはようやくドラゴンベルトが目前のところまで来ていた。
高いビルがほとんどなくなり、眼の前には荒れ地が広がっている。ところどころに転がっているぎらりと黒い塊は泥油で、ずっと向こうで視界を横切ってでんと居座っているのが生駒山地だ。
大阪のドラゴンベルトは、あの生駒山地と、元市街地中心部を南北に走る上町台地のちょうど中間あたりを、この二つと平行に通っている。
ドラゴンベルトとは要するに、常に決まった位置で流れ続けている不可視、高出力のレーザーだ。
ある時、突如出現した、この神の恩寵のような現象を利用することで、我々人類はエネルギー枯渇の問題を解決したのだという。
古い文献やサーバーに置き忘れたかのようにキャッシュされ続けているサイト記事などを読む限りじゃ、少なくとも50年前にはなかったもののようで、ドラゴンベルト誤進入の爆発事故なんかのことも一切書かれてはいない。
その代わりに、今からすると想像だにできないエネルギー問題についての記述などがあったりして興味深い。
で、そのドラゴンベルトだが、電力抽出は基本、個人作業になる。
と、いうよりも組織だってこれを行うような行政や機関がもはや存在しないからだ。
そしてオレはこの作業が苦手で何度やっても慣れない。
作業そのものが難しいわけではないのだが、小心者のせいか、いつ爆発するかといまだに生きた心地がしないわ、手も震えるわ、だ。
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