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「……意外に快適…だと?」
「だろ?」
脚の間に座らされ、腹に回された腕でシートベルトで固定するように抱き締められる。
思った以上にしっくりときた座り心地に徐々に体の力を抜き、そのまま伊瀬の胸に凭れるように後ろへと体重をかけると、ゆっくりと髪を撫でられた。
「…暑苦しい」
「んー…?なんかいつもと臭いが違うな。ホテルのシャンプーか」
「っか!嗅ぐな!臭いとか言うな!」
「暴れんなって」
抱き締めたまま、髪の匂いを嗅がれゾクゾクと項の辺りに妙な感覚が走り、思わず足をバタつかせるががっちりと固定をした腕は外れることはない。
「いいから、力抜いて大人しく花火見てろって」
「う゛ー…」
ゆっくりゆっくり、犬猫でも落ち着かせるように、長い指に髪を絡める動きとシャツ越しに背中に感じる心音にうとうとと眠気が降りてくる。
「…小さい頃、一度だけ父に夏祭りに連れていってもらった事があったんです」
小さい頃、まだ『家族』だった頃。
父と兄に手を引かれて、初めて見た屋台に興奮した。
「祭りの屋台のヨーヨーが欲しくて、父が取ってくれたんです。綺麗な、青のヨーヨー」
嬉しくて嬉しくて、家に帰ってもずっと手に持っていた。
「…あのヨーヨー、どこに行ったんでしょう」
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