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「ヨーヨー?」
小さく萎んでも手放したくなくて、大切におもちゃ箱にしまっていた。
「どこかにいってしまったんです」
そういえば、あれは。
「ヨーヨーなら俺が取ってやるよ。青でも赤でも、好きな色を好きなだけ」
「…本当に?」
小さく萎んだあのヨーヨーは父に見つかって、ごみ箱に捨てられた。
これはもうゴミだから、また来年取ってあげるから。と優しく笑って。
「ああ、スーパーボールでも金魚でもひよこでも、持ちきれなくて邪魔になるくらい」
でも『来年』は来なかった。
「…そんなに沢山要りません」
私は、あの捨てられた青いヨーヨーが一番欲しかった。
腹部に回された腕に軽く触れて、伊瀬の胸に後頭部を押し付けるようにぐっと凭れかかると腕の力が強くなり、伊瀬に凭れたまま花火の音に目を閉じた。
「ヨーヨーは何色がいい?青?」
「…あか…」
「赤か」
膝の上に座らされたままゆらゆらと前後に揺られていると、徐々に瞼が重くなり、花火の音がゆっくりと遠退いていった。
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