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「…では、命に別状はないのですね」
『ああ、それどころか、あれだけ深いのに筋肉も神経も臓器も、綺麗に避けて刺されているお陰で特に後遺症の心配はないそうだ。
本当に運のいい男だね、彼は』
「…よかった」
伊瀬が刺されて病院へ運ばれていったあと、後夜祭を終えて自室に戻った自分が理事長代理からの電話で我に返るまでの数時間。何をしていたのか記憶は定かではない。
璃王に怒られたような記憶はないので、おそらくはなんとか仕事はこなせたのだろうと思いたい。
『…ただ、ひとつ問題が出てきてね』
またしてもぼんやりとしかけた思考が理事長代理の言葉で呼び戻され、反射的に息を止めて背筋が伸びる。
『伊瀬くん。なのだけどね…このままだと出席日数が足りずに卒業出来ない可能性があるんだ』
「…は?」
『後遺症はないとはいえ、重傷だからね…暫く入院する必要があ』
「え、出席日数が足りないのですか?伊瀬の?」
あまりに信じられない言葉に思わず失礼な口をきいてしまったが、言われた本人が流しているようなのでそのまま話を進めていく。
「…彼は、GW頃からずっと私が朝に起こしているのですが…」
元々は新歓のご褒美のモーニングコールだった筈なのに、電話が繋がらないせいで直接部屋へ叩き起こしに行くようになっていて、『じゃあ明日もよろしく』と何時ものように言われたある日。起こし始めてから一月半は経過している事に気付いた。
その後もなんだかんだで起こすことになっていて、気付けば部屋に居座られていて…随分と伊瀬の掌で転がされているような気がしてならないが、それはともかく。
「伊瀬が遅刻をするような事は無いと思うのですが…それでも足りないのですか?」
「そうなのかい?俺もさっき犬養先生に言われただけなので、細かい出席状況まではまだ把握していないのだよ。
まあ、それはいい」
「よくないですよ!?」
「木崎君、明日伊瀬くんのお見舞いに来るかい?」
「いきます」
即答していた。
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