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ここまでされても、危機感や嫌悪感を感じさせないのは最早才能だと思う。
璃王の話で思い出した。かつて圧倒的なカリスマで全校生徒の信奉を集め、数々の学園の改革を実現させた伝説の生徒会長。
たしか、いつだったか眞城が興奮ぎみに教えてくれたような気がする。
勿論、危機感や嫌悪感を感じていないのは自分だけであって、周囲がそうだとは限らない。と言うのは、理事長の背後から漂う今にも眼力だけで人を殺せそうな伊瀬の視線でよく理解できる。
「ふふ。自分が対象になっても楽しくはないのだけれど、こんな風に嫉妬を受けるというものもなかなか楽しいねぇ」
なにか眞城のような台詞を言っているような気がするが、理事長の向こうから鬼の形相でゆっくりと近付いてくる伊瀬が恐すぎて話に集中できない。
と、言うか逃げたい。
「あの、理事長手を離し…」
「おい」
低い低い、地の底を這うような声に自分の手首を掴む理事長のその手を振り払って回れ右して全力疾走して、いっそ全力失踪してしまいたい。
そもそも、伊瀬にここまで凶悪な顔で睨まれ苛まれる筋合いがない。
「ああ、楽しい。楽しいけれどこれ以上遊んでいると悪い虫君に怒られてしまうねぇ
では、俺はここまでにしておこうか、なっ」
「あっ!」
背後から、確実に延髄を狙って繰り出された蹴りを振り返ることもなく避けると、そのままスキップでもするような軽い足取りで宇野の手を握り、反対の手で鳥居の腕を取り
「では、可愛い弟と素晴らしい友人と久し振りに楽しく過ごそうか」
「おい兄…」
「ダメダメっ理事長命令だよっ」
なんて心暖まるやり取りをしながら嵐のように去っていってしまった…
「…あの人、いったいなんなんですかね…?」
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