海と嫉妬と絶体絶命

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一年前は、目を離したせいで、しっかり捕まえていなかったせいであいつには逃げられてしまった。 だから、今度はもう逃がすつもりはない。 付きまとっているうちに慣れたのか、隣にいても逃げなくなった。 いつの間にか大人しくキスされるようになって、抱き締めて、押し倒しても最後には流されているようになった。 『気持ち悪い』 あの時、自惚れでなければあいつに触れてもいいのは自分だけだと言われたように聞こえた。 自分ですら許されていなかった、肌に残された他人の痕に頭に血がのぼって、泣かれても手を止められなかった。 触れる度に甘い声を上げて反応を見せる肢体に、夢中で自分の痕を上書きして、もっと欲しいと思った。 『な…なんでも、するから。これだけは嫌です…っ!』 尋常じゃない程血の気が失せ、青を通り越して真っ白になった顔で、ひきつった声でそこまで言われて漸く手が止まる。 あの木崎が泣きながら懇願する程怯えている。 「そんなに嫌か」 多少の罪悪感と、たちの悪い興奮。 このまま最後までやって泣かせてしまえば、今日の記憶は全て自分のもので埋めてしまえる。なんてろくでもない考えは辛うじて抑えることが出来たけれど。 『い…伊瀬…すいません…』 たった今襲われて泣かされた相手に、こいつは馬鹿なんだろうか。 学習能力なくふらふらと近付いてきた木崎の手を捕まえて引き寄せる。 逃げるくせに、捕まえてしまえば大人しくなる。 あの頃だって、逃げても捕まえれば結局素直に戻ってきた。 追いかけられる為に逃げているこいつは、どうすれば逃げなくなるんだろうか。 「『これだけは』だったな」 「い…」 「これ以上の譲歩はねえ」
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