海と嫉妬と絶体絶命

36/42

3101人が本棚に入れています
本棚に追加
/652ページ
※side 氷呂※ 全身に重い粘膜がまとわりつくような、嫌な、怖い夢を見たような気がした。 全速力で走ってもその場所から動けない。 悲鳴をあげているはずなのに声が出ない。 そんな、逃げ場の無い夢。 夢の中でこわいものから逃げるように、助けを求めて動かない手を必死に伸ばして声を上げる。 誰も助けてくれないのは解っている。でも、あの人は… 「りゅ…」 夢うつつに名前を呼びそうになっている自分に気付き、慌てて意識が覚醒する。 現状を把握しようと重い目を強引にこじあけ、ピントの合わない視点が数秒のタイムラグの後、目の前数センチの位置にあった伊瀬の顔を捉えた。 「!」 反射的に距離を取ろうとした身体はしっかりと背中に回されていた腕のせいで離れることは出来ず、下手に動くと起こしてしまいそうで、逃げる事を早々に諦めて力を抜いた。 目が覚めて、目の前に伊瀬が寝ているこの現実に以前ほど動揺していない。 だが、もう何度か経験したこの光景にだけは、絶対慣れてはいけない気がする。 「うー…」 それなのに、包むように乗せられた腕の重さが心地よくて、あと少しぐらいならこのままでもいいか。なんて事をうっかり考えてしまった。
/652ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3101人が本棚に入れています
本棚に追加