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時折吹く風は微かに凍える骨の節々に更なる外気の冷たさを重ねるかのように吹いていた。まるで、夜の情景に足を踏み入れた自分を拒むかのような冷たさにも感じられる。
目の前にあるのは、駅前に佇む小さなバス停。時刻表は錆び付いているのに加えて夜闇が視界を遮っているのでよく見えない。ただ、バス停の看板の一番上に大きく「夜行バス」という名の文字が刻まれているのは少々遠目からでも確認できた。
まだ、このバス停が使われているのか、使われていないのかは分からない。
だが、心の中で小さな期待はあった。
ここにバスが来て、自分をどこか遠くへ、ここじゃないどこかへ、現実を見なくて済む理想郷へ、と連れて行ってくれるのではないか、と。あくまで、夜中に俳諧する男の妄想でしかないのだが、予感はした。
途方もない中、静かにため息を吐き、下をむいた、刹那。車のエンジンのような音が耳に飛び込んでくる。
ぼんやりと月明かりのみが照らしていた道が人工的な光に満たされはっきりと浮かびあがってくる。慌てて、発光源へと視線を移すと、のろのろと近づいてくる小汚いブルー中型バスが自分の方へと向かっていた。
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