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停車時のバス独特の空気の抜けるような音と共にバスは自分の目の前に止まった。そして、バスはゆっくりとドアを開ける。
静かに生唾を飲み込んだ。
このバスが自分を何処か遠くの未知の地へ運んでくれるのかも知れない。心のどこかで少年漫画のような展開を期待している自分に気がつく。
ありふれた世の中から足を抜け出すときが来たぞ。
心の中の声はしっかりとした現実味を帯びて体の中へしみこむ。
大きく深呼吸をして僕はバスの乗車口へと乗り込んだ。
運転手は頭の禿げかかった小柄な年配の男であった。僕が乗車するなりこちらを凝視してくる。
「このバスは……、どちらまで?」
運転手の男にたずねた瞬間、脳内に緊張が沸いてきた。新たな世界への旅立ちを予感させる確かな緊張であり、高揚であり、それは少し心地よい。
「ああ、横浜駅方面だよ」
男の無機質な返答が響く。
異世界へと導く魔法のバスなんてこの世にはなかった。
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