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気を付けろよ―――そう陽良が口を開いた、時だった。 ビーッ…… 街灯に括り付けられたスピーカーから、あり得ない大音量で、アラートが鳴り響いた。 ビーッ。ビーッ。ビーッ。 真夏日。 炎天下の下、外を歩いている人は少ない。 それでも、ちらほらと居た学生達は皆、その音を聞いた瞬間に、手近な学舎へ向かって走り始めた。 『次元壁損傷、次元壁損傷。付近の住民は、直ちに避難して下さい』 全世界へ張り巡らされたSDO支部のコントロールセンターから、警告が鳴り響いている。 あれほど煩かった蝉の鳴き声が、いつの間にかやんでいた。 「やべえ!おい陽良―――」 「――――――っ!!」 俊紀は咄嗟に立ち止まり、自分も学舎へ向かって駆け出そうとした。 安全マニュアルは全国民へ配られ、幼い頃から避難訓練などで叩き込まれている。 だが、陽良は足を止めていた。 動かない。 抱えていたタブレットを起動して、画面をじっと見つめている。 「陽良!!」 「―――近い」 「おい何してんだ、早く逃げるぞ!!」 焦る俊紀が、ぼそり、呟く青年の腕を掴む。 しかし。 「これ、お願い」 陽良はタブレットを友人に押し付けると、一目散に駆け出した。 ―――学舎とは正反対、敷地を出る東門へ向かって。 「何やってんだよ陽良!戻れよこのバカ!!」 「君は避難してて!!」 慌てて俊紀が叫んでも無駄だった。 振り返りもせずにそう告げて、いかにも研究生、といったひょろりと頼りない背中は、あっという間に東門を抜けて行ってしまった。 「……あのバカ!」 チ、と舌打ちを漏らす。 そうして残された俊紀は学舎へと走り出しながら、腕時計の形をしているそれを口元へ引き寄せた。  
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