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◇
タブレットには、SDOの管理する次元壁損傷アラートのアプリケーションがインストールされていた。
本来避難のために開発されているそれは、警告とほぼ同時に更新されるリアルタイムの優れもので、今、どこに「穴」が空いたのかを地図上に示してくれる。
アラートが鳴ってすぐ、確かめたそこは近かった。
走ればほんの二分で着く距離だ。
(……今度こそ)
全速力でそこを走り抜けながら、陽良は内心で呟いていた。
(今度こそ、会えるかな)
いや、会うんだ。
その為に、ずっと探してたんだじゃないか。
ぜいぜいと息を切らせながら、走る。
そうして目的の場所に辿り着くと、空を見上げた。
青い青い空に、もくもくと積もる白い雲。
その片隅に浮かぶ、黒い黒いぽっかりと空いた大きな穴。
あの日と、まったく同じ光景がそこにある。
(今度こそ)
―――あの人に、会うんだ。
陽良は一瞬だけ立ち止まって、きょろきょろと辺りを見回した。
辺りに人影はない。当たり前だ。
皆もうとっくに避難したのだろう。
そして、あの人も、また来ていない。
この周辺は、まだ「カテゴライジング」されていない。
穴の真下、丁度良く隠れられる場所を探す。
遠くては駄目だった。「カテゴライジング」の範囲から外れてしまっては意味がない。
近すぎても駄目だった。
カテゴライジングする前に追い出されてしまう。
チャンスは、おそらく、そうなかった。
だからこの一度を、最大限に使わなければならない。
並ぶ雑居ビルとビルの間、細い隙間に、ゴミステーションがあるのが見えた。
百センチちょっとの高さがあって、周囲を壁で囲み、両開きの扉がついている。
「―――あそこだ!」
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