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「『穴』があいたぞ!!」
それは、誰の叫び声だっただろう。
街中で突然上がったその声に、道行く人々は誰もがぎょっ、とした顔で空を見上げた。
青い青い空、もくもくと積もる白い夏雲。
その隅っこに、黒い黒い穴がぽっかりと口を開けている。
「『穴』だ!!他元生物が来るぞ!!」
きゃああああ、と悲鳴が湧き上がった。
それまでつん、とした澄まし顔で歩いていた大人達が、恐怖に我を忘れて走り出す。
少しでも安全な所へ。
隠れられる場所へ。
頑丈な所へ。
僕はそれを、唖然として眺めていた。
だって突然すぎてどうしていいか解らなかったんだ。
小学四年生、初めて一人で電車を乗り継いで、賑やかな隣街へ出て来た所だった。
どこに隠れたらいいかなんて、解るはずもない。
手を引いてくれる大人も、いない。
きゃーきゃー。
わーわー。
怒号と悲鳴が錯綜する中、黒い黒い塗り潰したような穴から、のそり、それが出て来た。
「他元生物」。
―――異次元からの侵略者が。
僕は時そこに至っても、まだ口をぽかん、と開けて、それを眺めていた。
他元生物は、大きなムカデみたいな姿をしていた。
もじゃもじゃと腹から生える何本もの足。
ぎょろりと大きな緑色の眼。
口元には、クワガタの角みたいな二本の牙が、にょっきりと。
「あ」
目が合った。
緑色の目玉がぎょろりと動いて、僕を見て、そして。
「ああ」
迫ってくる。
近付いてくる。
大きくなる。
駅前の高層ビルよりちょっと小さいくらいの大きさで、でもそれは人間なんかよりずっとずっと大きくて。
口元の牙が、かしゃん、と打ち鳴らされた。
「あああ」
食われる。
「ああああああああああ!!」
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