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陽良は全くの善意でそう言ったのだが、俊紀はますますむくれて頬をぷう、と膨らませてしまった。
「俺だけで行ったって混ぜて貰えねえだろ!」
「え、何それ。大勢で行くんでしょ?」
「アキちゃんとエンちゃんとミキちゃんとあーちゃんと……」
「女の子ばっかりじゃないか。男は?」
「だからお前を誘ってるんですぅー」
何という無謀な賭けだ。
陽良は小さく天を仰いだ。
「どのみち僕が行っても無理でしょ、それは。諦めな」
「いや、お前が行くなら山本にも渡辺にも声、掛けられるじゃん。四対四じゃん」
「僕が行かなくても声掛けてきたらいいだろ?」
「ダメダメ俺人望ないから」
「そんな事ないよ」
挙げられた名前は、男女両方ともに研究室で仲の良い人達のものばかりだった。妙な所で遠慮をするものだ、と陽良は首を傾げた。
しかし俊紀はむくれたままそっぽを向いて、出たよ無自覚、などと小声で呟いている。
「なあそれ、そんなに急いで、何調べてんの」
「ん?統計」
「だから何の」
「次元壁損傷による他次元介入事例の統計」
「はァ!?」
すっとんきょうな声を上げた俊紀に、思わず陽良はしーっ、と指先を口元へあてた。
しかし俊紀はまったく気にした風もなく、椅子をぎっ、と軋ませてふんぞり返る。
「どうせ誰もいねえだろ。クーラー止めてる図書館に籠もる物好きなんか、お前くらいだ」
確かに、八十席を誇る図書閲覧室には、誰の人影もない。
「何でそんなの調べてんの」
「うん。これを見るとね、大体予測が付けられるようになるんだよ。次にどの辺で次元壁が崩れるか。つまり通称『穴』が、どこに空くのか」
「うっそでー……SDOもそんな事言ってねーぞ」
SDO。
スペシャル・ディフェンシング・オーガニゼーション。
和訳では特務防衛機構。
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