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◇
リクエスト通りに図書館を出て、甘味屋へ向かう。
陽良は満足げなほくほくとした顔で、それはもう嬉しそうに照りつける陽差しの中を歩いていた。
ミーン、ミーン、ミーン。
じーわ、じわじわじわ。
蝉は相変わらず煩く鳴き続けていて、いっかな羽根を休める気配がない。
(あとはこれを、家のPCに入力して解析に掛けて……)
『穴』が空くためには、きっと条件のようなものがあるのだ。
無作為に突然ぽかんと空く訳ではない。
陽良は随分前にそれを確信していた。一介の大学院生である自分でも気付けた事だ、恐らくSDOも公表していないだけで把握しているだろう。
それでも。
(上手く行けば、これで次の襲撃には間に合うかな…)
にこにこと上機嫌に歩く足元に、ちたり、汗が落ちて黒い染みを作る。
温暖化現象、と言われ初めてかなりの時間が経っていた。
次元転移装置は、物流にガソリンなどのエネルギーを使わない、という点でも実は革命的で、だからこそ各国から称賛されたのだ。
―――結果はこんな事になってしまったけれど。
「俊紀、あそこでいいかな。東門を出た所の、」
「ああ、茶処和泉だろ?いいよ。あそこの抹茶旨いから」
「……そこまで緑茶、好きだったっけ……」
知らなかったか?薄情だなあ、お前。何年つるんでんの。
そう言われて陽良は肩を竦める。
確かに、この友人が普段飲んでいるペットボトルの飲料は、いつもお茶だったような気がしてきた。
「ちなみにお前、俺の実家が何屋かも知らねえだろ。あんだけ研究室に差し入れしてんのに」
「えっ?」
「うちな、老舗の和菓子屋だぜ」
「えっ」
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