0人が本棚に入れています
本棚に追加
宇田ヤンがりんご酢を飲み始めたのは、確か、去年の秋口だった。
健康志向の彼は、三年になると、とにかく色んなものに手を出した。
プロテイン、サプリメント…
でも、飽きっぽい性格が手伝って、どれも長続きはしなかった。
りんご酢もその延長。
『ど~せまたすぐに飽きるな。』
と思っていた。
だから、上手そうに、
「やっぱこれだな!」
と紙パックをすぐ空にした彼を見て、思わず笑ってしまった。
「実際の所、それ飲んで健康になったの?」
苦笑気味に問えば、
「え?さあ?分かんね。」
肩をすぼめて言うものだから、無駄にニヤけてしまった。
いつの間にか、オレンジの道が途切れていた。
代わりに、周りは田んぼだらけになっていて、蛙たちの合唱が響いている。
夏らしくて、夜だけど、清々しい。
おまけに今夜は満月。
月の光も十分過ぎるくらいに降り注いで、田んぼに金の絵の具をぬる。
「あとどんくらい?」
「……知らん。」
「知らんて…調べろやー、助手席に座ってんだから。」
“ったく”と博之が呟いているのは分かった。
でも、答えられないほどに、この景色にみとれていた。
最初のコメントを投稿しよう!