0人が本棚に入れています
本棚に追加
「そういえば晃~。どうなの?大学生って。」
デカい体で欠伸をしながら、宇田ヤンは軽く背伸びした。
「どうって?別にふつー。」
「普通って…どう普通なの?」
また両肘を座席の肩口に置きながら、彼はニヤニヤしている。
「どうって…知らねーよ。でもまぁ…暇かな?」
「暇ぁ?てめぇ…こちとら来年こそは失敗しないようにって、毎日毎日汗水垂らして勉強してんのに。」
そう言って、博之はウインカーを左に出した。
視線を向けると、向こう側は、さらに夜の闇が広がっている。
「汗水垂らして?実際はクーラー効きまくったとこばっかだろ?」
「そうだよ。見ろよ博之。汗水垂らして、っつーのは彼のこと言うんですよ。な、宇田ヤン。」
「おうよ。」
土建業で鍛えられた二の腕に力こぶを作って、白い歯を無駄に見せる。
健康的に焼けた肌は、真っ白な博之とはまるでオセロのようで笑えてしまう。
「…ふん。俺の汗水、ってのは“心の”なんだよ。」
面白くなさそうに、博之はわざとアクセルを踏み込んだ。
窓から入ってくる風は、夜とは言えど、夏らしく、生ぬるい。
けれど、その温度が、心地よく感じてしまう。
去年の今頃は、移動手段といえば自転車だけだった。
車に乗って、こうしてこんな風を感じていることが、どこか不思議で、くすぐったい。
「でもさ、なんで海?夏だから?」
博之は、前に向ける視線をずらさずに、少し悩みながら答えた。
「ん~……やっぱり、青春チックだから?かな?」
最初のコメントを投稿しよう!