よる☆かぜ

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波の音は、先程の生ぬるい風よりも心地良く響いていた。 繰り返される水の共鳴が耳に心地良い。 不思議と目を閉じて、聞き入っている自分がいる。 ふと気づけば、博之はサンダルを脱いで、足だけ水に浸かっていた。 「やべっ、砂の感じ、気持ちいいわ。」 童心に返った子供のような笑顔。 その顔を見て、三月のことを思い出した。 国立一本に絞り、彼は、一生懸命自分を追い込んでいた。 でも、結果は努力を裏切った。 『ダメだったわ、やっぱ……』 そう言って苦笑いした博之に、俺も宇田ヤンも、どう言ってやればよいか分からなかった。 泣きたくなったかもしれない。 悔しさから、叫びたかったかもしれない。 でも博之は、いつもの博之でいようとしていた。 笑ってはいるけれど、全然笑えていない。 まさに、“作り笑顔”そのもの。 その時の表情と比べれば、今見せてくれた笑顔は安心できるものだった。 「あれ?宇田ヤンは?」 気づくと、サンダルを履き直した博之が目の前にいた。 足首まで、びっしょりと濡れていて、少し、砂がついている。 「あれ?そ~いやいね~な…」 「……まさか、波にのまれた?」 「……」 「……」 「……いや、ないない!んだってあいつ、中学では水泳部だし。第一、ここは潮の流れはすっげぇ緩やかなはずだぜ?」 「……じゃあどこに……って、あれ?いた…」 ふと振り向く。 車を停めた丘の上から、ダラダラとこちらに向かっている。 「なんか手に持ってんぞ?」 「あれって……バケツ?」 片手に青いそれと、なにやらコンビニの袋を持ってきた宇田ヤン。 「何それ…」 「これ?いや~、夏といえば、ってことで、二人とも忘れてね?花火だよ、花火!」 意気揚々と笑って、彼は、大量の花火を袋から出し、砂浜の上に広げてみせた。
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