Stand by U

2/9
前へ
/33ページ
次へ
桜が咲いた。 気づかぬうちに、冬の空気は春に移っていたらしい。 淡いピンクの花びらに、ひとひらの記憶を辿る。 その先には、やはり、葉月がいる。 あの頃。 そう、あの頃は、葉月がいるのが当たり前だった。 空気のようで、水のようで…でも、しっかりと、『葉月』として、実体はあった。 僕は、それを確かめたくて、いつも彼女をしっかりと抱きしめる。 『秀人、痛いよ』 と、葉月の声。 でも、僕は知っている。 口で言うほど痛くもないこと。 むしろ、僕を感じて、喜んでくれていること。 彼女はいつも、優しい笑顔だった。 屈託もなく、その視線は、いつも僕に向けられていた。 そう、まるで、この桜の花びらのよう。 淡く、儚いピンク色。 僕とキスをする時は、いつも、顔をそうやって赤らめていた。 … 思い出せば切りがない。 たくさんの時間の中に、いくつの笑顔を向けてくれただろう。 『ずっと、一緒にいようね。』 交わした約束。 向かい合って、笑ったあの時。 でも、もう葉月はここにはいない。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加