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「なんか、安心したよ。」
持っていた手持ち花火から、勢い良く火の粉が飛び散っている。
最初は赤と緑だったそれは、今は青と黄色に色が変わって、とても鮮やかだ。
「何が?」
博之の持っていた花火がちょうど燃え尽きた。
水の張ったバケツに入れると、“ジュッ”と音がした。
そして、ガサガサと袋を漁って、次のものを物色している。
「いや?何でもない…」
「何だよ。変な奴だな。」
そう言って、彼は穏やかに笑った。
確実に、あの時の笑顔とは違っていて、やはり、どこかホッとする。
「なんか、いいな。こーゆーのって。」
新しく手に持った花火に火を点けて、博之はそれをぐるぐると回し始めた。
ただ闇雲に回しているから、こっちにも火が飛んできそうである。
「あっぶねぇな!ちゃんと人のいない方に向けなさい!」
どこか母親口調で言ってはみるものの、まるで聞いていない。
「えぇ?花火は回してなんぼだべや。」
なんて言いながら、ケラケラと笑う。
「んっとに。」
「いいじゃん、怪我しなければ……でもま~、なんだか青春だな~。」
「そういえば、去年も球技大会の打ち上げで花火やったよな。」
「やったな~。山本だっけ?職員室に間違って連射砲ぶっ放したの。」
「そうそう。タコ先真っ赤になって怒っちゃってな……笑ったな~あん時は。」
沖の方に、漁船の大群が見える。
夜の暗い水平線の上に、ポツポツとまばらに明かりを灯している。
仄かな月の光も合わさって、とても幻想的に見えた。
口には出さないが、俺も博之も、思い出に耽った余韻を楽しみながら、ぼんやりとそれを眺めていた。
「お~い!打ち上げ、セットできたよ~。」
遠くの方で、宇田ヤンが手を振って、こちらに合図を送っている。
「宇田ヤン……消えたと思ったらあんなとこまで……」
「つくづく消える奴だよな、昔っから。」
そんなことを言いながら二人で笑っていると、小気味よい音が聞こえた。
“ポンッ”というそれと同時に、小さいような、大きいような花火が輝き始めた。
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