よる☆かぜ

7/7
前へ
/33ページ
次へ
打ち上げ花火はきれいだった。 でも、すぐに終わってしまった。 いや、手持ち花火よりは長く咲いてはいただろう。 でも、スケールとか、彩りの美しさとかが違う分、消えることが惜しくなる。 だから、短く感じてしまうのだろう。 「あ~あ…終わっちゃった。」 子どもが拗ねたような声で、宇田ヤンは回収したそれをバケツに入れた。 「でもまあ…楽しかったよ。」 そう言って、博之もバケツの中身を片付け始める。 もう一度、沖の方を見る。 さっきまでいた船の大群は、さらに遠くに行ってしまった。 灯りがとても弱まっていて、宵闇が色濃くなっている。 なんだか切なくなった。 何故かは分からない。 理由などなく切なくなって、波の音に聴き入っていた。 でも、この景色は、なんだか忘れないような気もした。 …… 時刻はもう、明け方近くになっていた。 「宇田ヤンは明日仕事休みだっけ?」 車をバックさせながら、博之は彼を一瞥する。 「うん、休み。だから、帰ったら寝るよ。もうね、目がシパシパしてるしね。」 答えながら、たばこに火を点けた。 そっと、窓を少し開ける。 煙が、霞み立つ風景の中に流れていって、溶け込んでいく。 いつの間にか、免許をとっていたり、煙草を吸っている。 連射砲を職員室に向けてしまった山本の話も、どんどん昔話になっていくのだろうか。 少しずつ、大人になっていく僕ら。 妙なくすぐったさを覚えて、ふいに、笑顔がこぼれた。 「な~ん……何笑ってんだよ。」 「ん~?いや…うん。別に?何でもない。」 夜明けは近い。 でも、もう少しだけ、夜のドライブを楽しみたい。 おしまい
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加