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打ち上げ花火はきれいだった。
でも、すぐに終わってしまった。
いや、手持ち花火よりは長く咲いてはいただろう。
でも、スケールとか、彩りの美しさとかが違う分、消えることが惜しくなる。
だから、短く感じてしまうのだろう。
「あ~あ…終わっちゃった。」
子どもが拗ねたような声で、宇田ヤンは回収したそれをバケツに入れた。
「でもまあ…楽しかったよ。」
そう言って、博之もバケツの中身を片付け始める。
もう一度、沖の方を見る。
さっきまでいた船の大群は、さらに遠くに行ってしまった。
灯りがとても弱まっていて、宵闇が色濃くなっている。
なんだか切なくなった。
何故かは分からない。
理由などなく切なくなって、波の音に聴き入っていた。
でも、この景色は、なんだか忘れないような気もした。
……
時刻はもう、明け方近くになっていた。
「宇田ヤンは明日仕事休みだっけ?」
車をバックさせながら、博之は彼を一瞥する。
「うん、休み。だから、帰ったら寝るよ。もうね、目がシパシパしてるしね。」
答えながら、たばこに火を点けた。
そっと、窓を少し開ける。
煙が、霞み立つ風景の中に流れていって、溶け込んでいく。
いつの間にか、免許をとっていたり、煙草を吸っている。
連射砲を職員室に向けてしまった山本の話も、どんどん昔話になっていくのだろうか。
少しずつ、大人になっていく僕ら。
妙なくすぐったさを覚えて、ふいに、笑顔がこぼれた。
「な~ん……何笑ってんだよ。」
「ん~?いや…うん。別に?何でもない。」
夜明けは近い。
でも、もう少しだけ、夜のドライブを楽しみたい。
おしまい
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