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答案用紙に書いた“好きです”という四文字。
一切解答を書き込まなかったそれを、ぼんやりと眺める。
小鳥の囀りが耳をかすめ、私は、昨日見た指輪を思い出す。
銀色に、キラキラと輝いていた。
先生は、私のことを、問1が分からない馬鹿だと言った。
考えてみた。
馬鹿なりに。
でも、いくら考えても、意味が分からない。
正直な、私の想い。
それが、宙に浮いてしまったようで、何かが沸々と込み上げてくる。
あの後、私は走ってその場を逃げた。
その時でさえも、涙が流れなかった。
なのに、何故だか今、泣けてきた。
控え目に、でも、当分止まりそうにもなく。
拭っても拭っても、とめどなく流れてくる。
そうして気づく。
先生はちゃんと、問1から、問6までを分かっている。
でも、私は問1ですら分からなくて、それなのに、問6を知ろうとしていた。
それはとても愚かなことなのかもしれない。
昨日は気づけなかった。
だから、涙が出なかった。
でも、こうして今、私は泣けた。
初めての“恋”に、正直でいることができた。
「あ~あ……追試、どうしよっかな。」
もう一度涙を拭って、私は、正解と不正解が並んだ答案用紙を破って、ゴミ箱に捨てた。
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