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移り変わる景色が、午後の日常に溶け込んでいた。
何もないと思っていた街並みも、今は、なんだか懐かしい。
先ほどまでいた、あの誰もいない公園も。
見上げたあの、空の青も…
静かに揺れる電車。
心地良くて、まぶたが閉じかけている。
薄れゆく意識の中、昨夜、一睡もできなかったことを思い出した。
……
『愚問……』
『そうだ、愚問だ。俺にはもう、こうして心に決めた人がいる。』
『…ずっと?』
『あぁ…』
『本当に?』
『…本当だ。俺の心は、もう自分だけのものじゃない。』
『そっか…そー、だよね……』
『……』
『……じゃあ、最後に…一つだけ、お願いを聞いてくれない?』
『お願い?』
『そう。お願い。』
『……何だ?』
……
電車のアナウンスが、私を現実に呼び戻した。
見ると、見慣れた駅の看板が、ドアの向こうにある。
慌てて駆け下りる。
すぐに閉まったドア。
向こう側の景色が、静かに目に飛び込んできた。
少しめまいを覚えたけれど、構わず歩き出す。
最初で最後のお願い。
触れた唇からは、微かにタバコの香りがした。
強引に口づけて、すぐ離す。
それでも変わらなかった表情に、私は終わりを悟ったのだ。
そして、想う。
次の恋をする時がきたら、今度は答えを見つけたい、と。
せめて問1くらいは分かるような、そんな恋を……
おしまい
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