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丘を登りきると、涙を拭う人影が見えた。
爽やかな風で揺れる木々の下で。
その涙は、強がっていて、でも、どうにもできず、一筋流れている。
僕にはそんな風に見えて、涙の先にあるものが、少し羨ましく思えた。
よく見ると、涙の主は女性で、とてもきれいな人だった。
雪のように白い肌と、長く、肩までかかった髪。
あまりの美しさに、僕はなんだか気恥ずかしくなった。
『なんで、泣いていたの?』
声にならない声で問いかける。
真っ直ぐ彼女を見据えると、彼女は、まだ少し頬に残っていた水滴をぬぐった。
そして、やっぱり強がってみせて言うのだ。
「なんでもないの。ただ、忘れていってしまいそうな自分が、とっても悲しく思えたの。」
ニコリと笑う。
その笑顔は、僕に向けられたもの。
こんなきれいで可愛い人に、こんな風に微笑まれて、嬉しくないはずがない。
僕は、半分照れも隠しながら、精一杯の笑顔を返した。
彼女は、本当はもっと泣きたかったのかもしれない。
胸の中の感情を、もっと、もっと叫びたかったのかもしれない。
でも、そうはせずに、美しく泣いた。
僕は、なんだか切なくなる。
そんなことを思いながら、丘を下った。
振り返ると、彼女がこっちを見ていた。
そして、美しい笑顔で目を細めながら、こちらに手を振っていた。
僕は、笑い返した。
そして、その笑顔を、頭の片隅に焼き付けた。
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