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葉月が僕の前から姿を消して、桜の季節は三度巡ってきた。
僕はその間、一度も葉月を探すことはなかった。
ずっと、ずっと…
どんなに黒い気持ちが渦巻いても、探すことはなかった。
「なんで?」
溶けかけた氷を口に含みながら、香菜は、視線を窓の外に向けた。
つられて僕も、そちらに目を向ける。
行き交う人の群れが、どこか、透明に見える。
「なんで?って…どうして?」
聞き返すと、香菜は、目を見開いて僕に視線を戻した。
「どうしてって…だって、会いたいとか思わないの?」
怪訝そうな表情。
眉間の皺が、彼女の気の強い性格を思わせる。
なんだか可笑しくて、思わず軽く吹き出した。
「なに笑ってんのよ。」
「いや、別に?なんでもないよ。」
「……変な奴。」
「うん。変かもね。」
「香菜。」
「…何?」
「会いたいよ。俺、葉月に会いたい。」
……
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