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見慣れない道に出た。
大して歩いてきた感覚がないのに、だ。
でも、周りを見渡すと、どこか見たことのある風景のような気がした。
『タイムスリップして、未来に来ちゃったのかな?それとも…過去かな?』
なんて馬鹿なことを考える。
しばらくトボトボとあてもなく歩いていると、小さな公園を見つけた。
赤いジャングルジムに、少し古ぼけたブランコ。
今度こそ、記憶の片隅にはっきりと残っていた景色を目の当たりにして、僕は、安堵感に満たされる。
同時に、懐かしさも込み上げてきて、思わず駆け寄った。
急に走ったものだから、すぐに、息があがる。
公園は変わっていなかった。
遊具の塗装は剥がれているところが多いけれど、他は何も変わらない。
でも、どうしてだろう?
このベンチからあちらの方向を向けば、見事な柿の木があったはずだ。
山道の入り口で、毎年橙色の見事な実をつけていた。
でも、そこに、あの柿の木はない。
そもそも、山自体が見当たらない。
あるのは、新しく建てられたばかりであろう、立派な家々ばかりだ。
僕は、悟った。
もう、あの柿の木は無くなってしまっていて、あの小さな裏山も、すっかり住宅地になってしまったということ。
とても、とても、悲しくなった。
でも、忘れたくなかった。
ここから見ていた景色を、忘れたくなかった。
だから、悲しみはあったけれど、しっかり目に焼き付けようと思った。
今はもう、すっかり新しい家々が建ってしまったけれど。
ここから見える、この新しい景色を、しっかりと……
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