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気づくと、家の前にいた。
辺りはすっかり闇が落ちて、月が、少しずつ輝きを増してきている。
ふと見上げると、今日も、二階の奥の部屋は、電気が点いていない。
うっすらと見える光は、多分、“パソコン”というもののせいだろう。
いつからか、柚美ちゃんはあの部屋に閉じこもるようになった。
“ガッコウ”にも行かず、幾日も、幾日も、出てこようとはしない。
そして時々、泣き叫ぶ。
『誰も私のことなんて、分かってなんかくれない!』
決まってそのように叫び、疲れて眠りにつくまで泣き続ける。
僕は、そんな柚美ちゃんに元気になってほしかった。
今だってそう思ってる。
でも、僕のそんな想いは、柚美ちゃんには伝わらない。
伝えたくても、伝える術がない。
歯がゆくて、ますます僕は、僕という存在の小ささを知ってしまう。
そういえば、いつか僕に呟いていた事があった。
『いっそ死ねたら、どんなに楽なんだろうね?』
僕はその時、何て言ったらいいのか分からなかった。
いつも笑顔の柚美ちゃんが、そんなことを言うなんて……
“死んじゃダメだよ”
“辛くても、きっといつか、楽しいことがあるよ”
でも、いつ来るか分からない“いつか”を、柚美ちゃんは信じることができない。
頭では分かっていても、きっと、“今”という現実が辛過ぎて、そんなこと、見えないのだろうと思う。
安易に励ましても、それは、柚美ちゃんのためにならない。
だから僕は、柚美ちゃんに寄り添った。
無言で体を柚美ちゃんに寄せて、瞳をみつめた。
すると彼女は、僕の視線に気づき、少しだけ笑みをこぼした。
そしてぎゅっと、僕を抱きしめた。
……
あの時、少し笑顔に戻った柚美ちゃん。
でも、今も、闘っている。
毎日毎日、もがき苦しんでいる。
本当は、助けてあげたい。
あの時のように隣に座って、寄り添ってあげたい。
また、柚美ちゃんの笑顔が見たい。
でも、それはもうできない。
後ろ髪を引かれながら、僕は、踵を返した。
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