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葉月の誕生日は、クリスマスイブ。
でも、本当に生まれた日は、当の彼女も知らない。
聖なる鐘が鳴るあの日に、彼女は教会で産声をあげた。
『私には、本当の居場所なんてなかったの。』
だから、彼女は欲していた。
世界中のどこにいても、“帰る場所”があるということ。
蜃気楼でも幻でもない。
自分の、自分だけの、特別な場所。
『それさえあれば、私はなんだってできる。なんにだってなれるし、何度でも立ち上がれる気がするの。』
“信じる”という言葉。
薄っぺらくもあり、絶対でもある。
葉月が姿を消した時、僕は、その不確かな“信じる”という言葉に縋るしかなかった。
いなくなった理由など、考えずに。
自分が、“帰る場所”になればいい。
もう、それしか頭になかった。
だから僕は動けなかった。
この街のこの片隅で、ただただ君の帰りを待つ。
そうするしかないと思ってた。
『じゃあ…あの時葉月にとっては、秀人は“帰る場所”ではなかったんだね。』
何気なく香菜が言った言葉。
今の自分が、葉月にとっての港になれているのかどうか。
それは、分からない。
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