Stand by U

4/9
前へ
/33ページ
次へ
葉月の誕生日は、クリスマスイブ。 でも、本当に生まれた日は、当の彼女も知らない。 聖なる鐘が鳴るあの日に、彼女は教会で産声をあげた。 『私には、本当の居場所なんてなかったの。』 だから、彼女は欲していた。 世界中のどこにいても、“帰る場所”があるということ。 蜃気楼でも幻でもない。 自分の、自分だけの、特別な場所。 『それさえあれば、私はなんだってできる。なんにだってなれるし、何度でも立ち上がれる気がするの。』 “信じる”という言葉。 薄っぺらくもあり、絶対でもある。 葉月が姿を消した時、僕は、その不確かな“信じる”という言葉に縋るしかなかった。 いなくなった理由など、考えずに。 自分が、“帰る場所”になればいい。 もう、それしか頭になかった。 だから僕は動けなかった。 この街のこの片隅で、ただただ君の帰りを待つ。 そうするしかないと思ってた。 『じゃあ…あの時葉月にとっては、秀人は“帰る場所”ではなかったんだね。』 何気なく香菜が言った言葉。 今の自分が、葉月にとっての港になれているのかどうか。 それは、分からない。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加