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ポケットの携帯が震えている。
会社からの着信だと分かってはいたけれど、今は出たくない。
電源を切って、僕は葉月のふるさとに足を踏み入れた。
思っていた以上に、立派な作り。
ステンドグラスのカラフルな光が、どこか現実を忘れさせてくれる。
キリスト教徒でもなんでもないが、神を信じたくなった。
誰もいない、静かな教会。
いるはずもない葉月の面影を探すが、見つかるわけもなく…
僕はただただ何も感じないように、大きく一度、息を吸った。
あてもなく、一番後ろの席に座り、マリア像の白さをぼんやりと眺めた。
「どなたですか?見かけない顔ですが…」
ふいに声をかけられ、少し驚き、肩が震える。
振り向けば、白い髭をたっぷりとたくわえた初老の男が立っていた。
身に着けたものから、すぐに神父であると分かる。
「あっ…いや、すみません。」
何故か、謝っている僕。
神父は、そんな僕を、目を丸くして微笑んだ。
「何をおっしゃいますか。教会は、誰が来てもいい所なんですから。」
「あの…一つ伺ってもいいですか?」
「ええ。どうぞ。」
「昔、この教会の前に置き去りにされた赤ちゃん、ご存知ですか?もう20年以上も前の話ですが…」
意を決して聞いてみる。
すると彼は、またさっきのように目を丸くして見せた。
そうしてくるりと踵を返し、教会から出て行った。
「……少々お待ち頂いてよろしいですか?」
そう言い残して……
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