2人が本棚に入れています
本棚に追加
「ねえねえ、キミってさ。今、死にたいなーとか思った?」
突如耳元で囁かれた声に振り向く。
「まあまあ、そんなににらまないでよ。別にそれを聞いて『じゃあころしてあげる』とか、そういうのじゃないからさ。かといってまるっきりの冗談でもないんだけど……。そうだね、人間の死に対しての一意見が気になった。そんな感じかな」
僕の前でせわしなく語る少女はどことなく透けている。
「……幽霊」
「キミから見るとそうなるのかな。ワタシにはそんなつもりはないけど。……まあ、見解の相違なんてのはいちいち取り上げるようなものでもないか」
それは否定しているのだろうか。
しかし、彼女の姿は明らかに透けている。服装はれっきとしたどこかの学校の制服なのだろうが、後ろにある川や柳が透けて見える。辺りにたいした橋も堤防もないような、本当にありきたりというかただの川。
いや、この時代自然がそのまま残っているような景色はむしろ珍しいのか。
彩るというよりはおどろおどろしさを際だたせるように周囲には柳がポツポツと生えている。
時刻が八時過ぎというのも相まってか、彼女の姿はいっそう不気味に見えた。
「見てわかるだろうけど、こんな姿だと対人関係やコミュニケーション能力なんてのはあってないようなものだからさ。日も落ちきった夜中、一人の少年が意味深な顔で水面を眺めながらたそがれているのを偶然見かけたりしたら、ちょっぴり気になっちゃうわけ。
だからさ、答えてくれない? キミは今『死にたい』と思ったか」
セロハンのように向こうが透けた顔が僕を覗き込む。
幽霊でも髪は伸びるのだろうか。彼女の髪はずいぶんと長く、腰近くまであった。
「……答えたくない」
「そう」
最初のコメントを投稿しよう!