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「でも――」  叫びかけた僕の唇に人差し指が当たる。 「大切なのは過去じゃなくて、今、現在、自分が存在している時間。あのときどう思っていたとか、もしもこうしていたらなんてifはワタシは聞きたくない。もう一度聞くよ。キミは今どうしたいの?」  僕は――。 「……謝りたい」  一言、ごめんって。  それだけでいいから。 「じゃあこんなとこにいないで、早く行った行った」  急かすように呟く彼女は初めより尚一層透けて見えた。  知らないうちに差していた月明かりが、彼女を通り抜けて僕に突き刺さる。 「それじゃ、またいつかね。まあ、もう会えそうにもないけど」  寂しげにぽつりと零す横顔にふと懐かしさを感じて手を伸ばしかける。 「なあ! おまえは――」  風が吹いた。  それまで沈黙していた柳たちが一斉にざわめいて、僕の言葉をかき消した。  思わず顔を覆った手をどけたとき、すでに彼女はいなかった。
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