6/6
前へ
/6ページ
次へ
「わかっていたけど……やっぱり寂しいかな、忘れられるってのは」  川岸から遠ざかっていく人影を遠目に彼女はつぶやいた。  彼女に答えるかのように柳はさわさわと揺れる。 「ワタシが死んだとき、まだ幼稚園だったもんね。……そりゃ覚えてないか」  一段と明るい月光に掌を透かす。現実味のないこの体にもずいぶんとなれてしまったな、と感慨にふける。  嘘でも覚えてると言ってほしかった。 「そろそろワタシも行かなきゃね。ま、ワタシがこんなにも頑張ったわけだし、後は上手くやるでしょ。うん、そうじゃなきゃ困るね」  一人こくこく頷いた後、もう一度彼がいた場所を眺める。 「……もう誰もいない、か。それじゃ、また会う日まで――――我が親愛なる弟よ」
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加