TrueEpisode3【赴任する破天荒】

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「はっ、え、ちょっ、本当に母さん!?」  自分を上から覗き込む彼女の顔をまじまじと見つめ、慎は信じられないという表情で尋ね返していた。  漆を少しばかり大人っぽくした顔に、漆黒の髪。体の輪郭が浮き彫りになるスーツ姿は引き締まっていて、一切の無駄がない。  正真正銘、四年前と変わらない姿の母親がそこにはいた。 「まさか母さんと漆ちゃんを間違えるなんて……ちょぴりショックかも」  しゅんと、肩を落として沈み込む朔夜。  自分が記憶の片隅にも存在しなかったことに対して、予想以上に心を抉られてしまった。  慎の胸元を指先でなぞりながら、彼女は不満たらたらな態度で口を紡ぐ。 「いやいやいや、誤解だよ母さん。丁度母親の事を思い出していた所だったんだよ。言葉で言い現すなら『噂をすれば』だね」  取り繕うようにして慎が必死に慰めようとフォローするも、 「あーあ、私は存在感の希薄な母親ですよーだ。私が愛する娘と息子に忘れられたら死ぬしかないですよー」  自虐的にふて腐れてから、慎の上に体重を押し付けて顔を伏せる。  その様子は、とてもではないが二児の母親とは到底思えなかった。
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