1838人が本棚に入れています
本棚に追加
「はっ、え、ちょっ、本当に母さん!?」
自分を上から覗き込む彼女の顔をまじまじと見つめ、慎は信じられないという表情で尋ね返していた。
漆を少しばかり大人っぽくした顔に、漆黒の髪。体の輪郭が浮き彫りになるスーツ姿は引き締まっていて、一切の無駄がない。
正真正銘、四年前と変わらない姿の母親がそこにはいた。
「まさか母さんと漆ちゃんを間違えるなんて……ちょぴりショックかも」
しゅんと、肩を落として沈み込む朔夜。
自分が記憶の片隅にも存在しなかったことに対して、予想以上に心を抉られてしまった。
慎の胸元を指先でなぞりながら、彼女は不満たらたらな態度で口を紡ぐ。
「いやいやいや、誤解だよ母さん。丁度母親の事を思い出していた所だったんだよ。言葉で言い現すなら『噂をすれば』だね」
取り繕うようにして慎が必死に慰めようとフォローするも、
「あーあ、私は存在感の希薄な母親ですよーだ。私が愛する娘と息子に忘れられたら死ぬしかないですよー」
自虐的にふて腐れてから、慎の上に体重を押し付けて顔を伏せる。
その様子は、とてもではないが二児の母親とは到底思えなかった。
最初のコメントを投稿しよう!